初心・uigokoro 22-3~春のひといろ~

初心・uigokoro 22-3~春のひといろ~

「雨やんだみたいね。」

懐かしいこの店の雰囲気は場所が変わっても、店内が小さくなっても変わらない。

カウンターの内と外にそれぞれ二組の男女がいた。

時代が変わるとニーズも変わる、喫茶店だったあの店はコーヒースタンドになっていた。

「今日はマサキが遊びに行ってると思うんだけど。」

「あぁ、彼が来るとお客さんが喜ぶって諒子が言ってたわ。若い男の子がいるといいわねって・・・。」

そう、カウンターの奥にいるのはマスターと松井先輩だ。

まさか二次会であの店に行ったことから2人が親しくなるとは夢にも思わなかった。

とはいえ、愛だ恋だの浮ついた話はなく、良い友達としてお付き合いしているよう。

「みちるちゃんはあの店の名付け親だしね。」

そう、わたしがつけた。

諒子ちゃんが店を出すと言ったときに一緒に名前を考えて欲しいといわれ

「ま・・・いや、cocoon(コクーン)ってどう?繭って意味なんだけど綺麗をつむぐって感じで・・・。」

そう表向きの意味を言った。

隣に座っている夕貴と眼が合った、彼は微笑むだけで何も言わなかった。

名前と聴いてわたしが言いかけて、一旦飲み込んだ言葉を彼は知っている。

マサキのあと、子どもが出来なかったわたしたち夫婦の仲にほんの少しだけある

小さなくぼみ。

「あの店はみちるにとって、子どもみたいな存在なのかも。」

「そんな風に思ってくれて嬉しいわ、ありがとう。」

あれから幾度も姿を変えて、尚わたしの手元にあるパワーストーンのストラップ

同じ石を同じ数だけ真由と一緒に作った。

真由が亡くなったと聴いたあの日から、もう10年以上経つ。

余りのショックに連絡先も訊かずに別れてしまい悔やんだのが昨日のよう。

この店に来るときだけストラップを解いて作った指輪をはめる。

小指の指輪を撫でながら、店先の赤い何かに気づいた。

「珍しい、いまどき傘が・・・。」

「あぁ、さっきデリバリーしたときに落ちていたんだ。珍しいから持ち主もすぐ見つかるだろう。」

店の外に出ると屋根の上で風見鶏が風を受けて回っている

そうそう、この店って風力発電なんだよってマスターが笑っていった。

いつから?昔からだったっけ?と振り返るとそうだと言われた、そうか気づかなかったな。

君が来ていたのは夕方が多かったから。

そう、そうだった屋根の上まで見ることはなかったし、見ていても気づいてなかったのかもしれない。

いろんなこと、気づかなかっただけなのかもしれない。

見上げると雨上がりの空は昔と変わらない色をしていた。

     完

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初心・uigokoro 22-2~春のひといろ~

初心・uigokoro 22-2~春のひといろ~

その子の言う店は美容院だった、ちょうど髪を切ろうかと思っていたのも不思議な縁だ。

お店の中にその子が声をかけると、元気のいい女性が現れた。

「どうしたの?女の子連れてくるなんて珍しい。だから雨が降ったのかしら?」

「だから雨じゃなくて、雨だからだよ。そこで傘をなくして雨に降られてたんだ。リョーコさん、タオル貸してよ。」

リョーコさんと呼ばれた女性は親しげにその子に話かける。

彼は笑いながらわたしにタオルを渡そうとした。

「せっかくだから、シャンプーする?」

「じゃぁ、カットもしてもらおうかな?」

えっ・・・と驚く顔をするので慌ててさえぎった。

「ちょうど切ろうと思ってたの。」

「ありがとう、じゃそこに座って。」

リョーコさんが話しかける、彼の名前はマサキと言って知り合いの息子さん。

彼のお母さんを知っているから、小さい頃からカットしてあげたりしてたんだと。

「そうなんだ・・・。」

「綺麗な髪してるわね、どのくらい切る?」

「肩まで切ろうかしら・・・あ、でもやっぱり背中あたりで。」

ブラシを入れながら思い出したように

「あ、そういえばお客さまの名前をまだ伺ってなかったんだけど。」

「城島といいます。」

「そう、城島さんよろしくね。わたしは諒子」

ひとに髪を梳かれるのは気持ちいい、シャンプーをされ少しうとうとした。

「少し待ってて。」

洗い終わるとそう言って彼女は席をたった。

ほどなくマサキくんがカフエオレを持ってきてくれた。

「良かったらどうぞ、嫌いじゃなかったらいいのだけれど。」

「ありがとう、いただきます。」

どうして何も言ってないのにカフエオレだったのだろう。

嫌いじゃない、むしろ好きなほうだ。

怪訝な顔をしていたのか、彼が

「嫌い・・・だった?」

「うぅん。」

あわててかぶりを振ると、あれ?と。

「そのピアス・・・何処かで見たことある。どこだろう?」

わたしの片耳につけているピアス

「あぁ、コレ・・・母が大事にしなさいってくれたの。きっと良いことがあるからって。」

おかしいな、滅多にないって言われていたのに。

そういえば、待っている間に雨もすっかりあがってしまったようだ。

わたしはマサキくんの淹れてくれたカフエオレを飲み終わると窓の外に眼をやった。

 

22-3>につづく

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初心・uigokoro 22-1~春のひといろ~

初心・uigokoro 22-1~春のひといろ~

22-1

あ・・・。

窓の外が暗くなったと思ったら、いつのまにか雨が降り出していた。

雨の日はなんだか心が落ち着く。

嫌いだって人もいるけれど、わたしは雨が好き。

ぽつり、ぽつりと落ちる一粒一粒を見つめていると、ふと髪を洗った際に滴る雫を思った。

あぁ、そろそろ切ろうかな。

どういうわけだか、わたしの髪質は母にも父にも似ていなくて、重い黒髪だ。

母の早くに亡くなったお姉さん、つまりわたしの伯母に似ているらしい。

時折、目を細めてわたしを見る母の目が、何だか寂しそうに見えるのは気のせいだろうか?

今では、雨に濡れることもなく、特に通学路なんかは屋根つきの道だ。

最近の子どもたちは、傘を持って学校にいくことはない。

校庭と呼ばれるものもなく、大きな体育館があるだけで、教室は1学年ほどしかない

余りにも子どもが犠牲になる事件が多発したため、全校集会等は月に1

教室で授業を受けることは週に1度、各学年で登校日が違う。

わたしが小学生の頃はまだ「学校」がちゃんと確立してたんだけどな・・・。

通学路を少し離れると、「雨の小路」があり、いわゆる物好きな人はここを通って傘をさす。

わたしもその「物好き」の一人だ。

赤い傘をさして、傘に落ちる雨音を楽しむ

ふいに腕をつかまれ、引き寄せられた。

「えっ?」

脇を車が通り過ぎた、そうだ・・・ここはまだ車が走ってる道路だった・・・。

車自体には安全装置がついているのでぶつかることはほとんどないが、それでも100%ではない。

振り向くと、男の子がわたしの腕をひいていた。

「あぁ、ごめん。」

じっと見ていたからか、その子は手を離した。

「あんまり動かないものだから・・・。」

「いえ、ありがとう。」

あれ、手に持っていた傘がなくなってしまった。

気に入ってたのにな。

「ごめん、濡れちゃったね。近くにぼくが良く行くお店があるから、少し休んでいかない?」

きっと・・・普段なら断っていたのに、どうしてかその子に付いて行った。

なぜだか、とても懐かしいような気がした。

22-2>につづく

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初心・uigokoro 21-2~桜色の風~

初心・uigokoro 21-2~桜色の風~

21-2

軽くそれまでの話を伺った。

あのとき、真由は妊娠していたこと

クリスマスの翌日、病院で調べて相手の人に相談したが中絶を迫られたこと

しばらく考えようと家を出たこと

でも、やはり堕胎できずにいたこと

「それで、真由は今・・・。」

ふぅと一息ついて、佳奈さんは言った。

「死んじゃったんです。あの子を産んでしばらくして。」

詳しいことは教えてくれなかったけど、産後一人で無理して身体を壊したらしく

夜中に救急車でたらい回しにされたらしい。

それから、娘さんはお祖母さんが育てていたらしいけど、妹さんが結婚して

引き取ったそうだ。

「わたしが子どもが出来ないので、主人の了承を得て、引き取ったんです。」

まだ幼かった娘さんは、すんなり佳奈さんをお母さんとして受け入れたのだと。

「高校出るまでは、わたしがあの子のお母さんなんです。

そのあとは本当のこと教えてあげようと思って。」

佳奈さんの目はすっかりお母さんの目で、その子を見ていた。

「おいくつなんですか?娘さん。」

「今年、9歳で3年生になります。」

「そうですか、わたしの息子は1年生に・・・。」

「息子さん、お名前は?」

「田辺真樹(まさき)です。娘さんのお名前は?」

「城島一葉(ひとは)と。姉がつけたんです。」

彼女とはそこで別れた、何だかもっとたくさん話したかったのだが

あまりに突然で言葉が出てこなかった。

息子のマサキが驚いた声を出した。

「おかあさん、どうしたの?」

「どうしたんだろうね。」

知らない間に涙がぽろぽろこぼれていた。

「お天気いいのにねぇ。空から雨さん降ってきたのかな。」

そう言いながら膝を折って息子の頭を撫でた。

慌ててハンカチを出そうとすると「はい。どうぞ」とマサキがハンカチでわたしの目の辺りを拭いた。

「あめさん、ぽつぽつしたのかなぁ~?」

と不思議そうに空を見上げた。

<22へつづく>

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初心・uigokoro 21-1~桜色の風~

初心・uigokoro 21-1~桜色の風~

21-1

あぁ、もうすぐ桜が咲くね。

わたしの右手をぎゅっと握る小さな手の持ち主に、こう言った。

うん、もうすぐお花がいっぱいになるね

わたしの手の先が自由になった、息子が手を離して蕾が膨らんでいる桜の樹を指差した。

「春から1年生だよ。」

「うん。」

頼んでいたランドセルも届き、ようやく落ち着いた。

通学路のチェックにと、今日は息子と2人散歩の途中だ。

そこまで家から遠いではないが、ちゃんと道を覚えているかと試してみた。

「あ、もうすぐ学校だよ。」

曲がり角に来ると息子はいったん振り返ってわたしを見ると、駆け出した。

「あ、だめよ。」

走ったら、転んじゃう・・・。と慌てて追いかけた。

「いたっ!!」

と、声が聴こえた。ほら言わんこっちゃない・・・。

と思って前を見ると転んでいたのは息子ではなく、前方から来た女の子だった。

息子はちらりとわたしの顔を見るとその子に駆け寄り手を出した。

「だいじょーぶ?」

「ありがとう」

そう言って立ち上がったその子の顔に或る人に似た面影を見た。

「ひとちゃん、大丈夫?」

向こうから女性がやってきて、息子に礼を言った。

「ぼく、ありがとう。おねえちゃん、すぐ転ぶのよ。」

「やめてよ、おかあさん。」

その人がわたしに気づいて軽く会釈した、つられてわたしも会釈。

近くまで行って息子の手をとり、その親子とすれ違った。

「もしかして、加藤さん?加藤みちるさん。」

と、声を掛けられるまでは・・・。

「旧姓は加藤ですが、今は田辺です・・・。」

驚いて振り返ると、その人はあぁと呟き

「ごめんなさい、旧姓しか知らなかったもので。覚えてらっしゃいますか?」

「え?」

「私、森本真由の妹の佳奈です。お久しぶりです。」

「えっ!?でも・・・。」

妹さんは当然私より年下で、連れている女の子はどう見ても息子より大きい。

「びっくりされますよね、そうですよね。」

子どもたちは少し離れたところでお喋りしている、女の子と佳奈さんを見比べてるわたしの視線に気づいて佳奈さんは笑った。

「あの子、姉の子どもです。」

<21-2>へつづく

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初心・uigokoro 20-3~ふたりでいる部屋~

初心・uigokoro 20-3~ふたりでいる部屋~

夕貴のくちびるがわたしのくちびるを塞ぎ、静かに身体をおちていった。

首のラインから胸のあたり、エアコン効いてないのかな?ぞくぞくする。

身体のラインを滑るように舌がなぞる。右の耳からずっと右側を滑り落ち

ようやくおへその辺りまできた。

じわじわと生温かい滴りを感じる、まだそこまで彼の舌が達してないのに

早く欲しくて濡れてきている

こんな風に抱くんだ・・・

頭の中で彼の昔の彼女たちもこれを味わったのだろうと思うと、少し悔しい。

そんなことを思う自分もおかしいなと、くすっと笑った。

「くすぐったいの?」

「うぅん、気持ちいい・・・。」

されるままに、身体を舐められるのも心地いい。

下腹部から腿の辺りまで舌がおちると、また身体の芯が熱くなった。

焦らされるのも嫌いじゃない、でも少し我慢できなくなって自分の指で少しなぞった。

右足まで落ちた舌が内腿まで上がって、左足に移った。

 彼はわたしの指の動きを見ながら舐め続ける。

「もう少し待って、みちるの大事なところも舐めてあげるから・・・。」

舌の動きが少し早くなり、左胸から耳まで戻ってぱくりと耳を咥えられた。

「ぁん・・・。」

キスをしながら彼が胸をゆっくりと揉みはじめると余計に腰が・・・

そんな様子を見て、彼はその濡れた部分に舌を這わせた。

襞になっているその敏感な部分を舌でかき分けるように押し広げ舌をねじ込ませた。

「あぁっ・・・いゃ・・・。」

散々、身体を舐められて過敏になっているから、凄く濡れてしまっている。

恥ずかしさで思わず声をあげた。

「チカラ入れないで・・・大丈夫、みちるのココ凄く綺麗だよ・・・。」

あぁ・・・恥ずかしい。

脚を折って腿を開いて、夕貴に全部見られちゃってる

何だかとても恥ずかしくなって、夕貴と目が合わせられない。 

「挿れるよ・・・いい、みちる。」

名前を呼ばれるたび、ぴくりと震える。

嬉しいのに、なかなか返事ができない。

答えるかわりに彼の背中をぎゅっつと抱いた。

久しぶりの男性との交わりだからか、あれほど濡れていたのに痛みを感じる

でも奥へと挿入される感覚が次第に幸福感へと変わった。

また、溢れてくる愛液で痛みがやわらいできた。

「痛い?」

「ううん、もうだいじょうぶ。」

やっと、夕貴の顔が見れた。繋がったままお互いの顔を見ていると愛しさが沸いてきた。

引き寄せ合うように唇を重ねると、そのまま腰を揺らし続けた。

この日を境に週末はどちらかの部屋に泊まるようになった。

それから半年後、2人は同じ姓を名乗るようになった。

<21-1>につづく

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初心・uigokoro 20-2~ふたりでいる部屋~

初心・uigokoro 20-2~ふたりでいる部屋~

「夕貴・・・あがったよ、夕貴はお風呂どうする?」

読みかけてた新聞から目を離すと、夕貴は振り向き、また新聞に目を落とした。

「俺も入ってくるよ。」

「うん。待ってる。」

こんな会話がぎこちなく思えるほど、2人とも緊張していた。

お互いに、こうなることを望んでいたはずなのに、やけに照れくさい。

わたしはエアコンのスイッチを入れると、スーパーで買ってきた

ペットボトルの水を小さいテーブルに置いた。

タオル、コップ・・・あと・・・てぃ・・・ティッシュですか?

用意しながら自分で照れた。

というのも、たぶん動きたくなくなるだろうな・・・という経験からだが

こうして準備してるのも変な気持ちだ。

なんだか、わたしが夕貴を襲うみたいだわ・・・そんな風にさえ思えた。

ふと、ない物に気づいた。

あ、しまった。持ってないよ、どうしよう。

ちょうど夕貴が腰にタオルを巻いて出てきて、テーブルの上を見て照れたように笑った。

「あのね・・・アレがないの。どうしよう・・・。」

言いにくいけど、ちゃんときいとかなくちゃ・・・。

「アレって・・・アレだよね?俺、持ってるけど。」

「えっ?どうして!?」

「一応、オトコですから・・・持ってるんですっ!!」

少し顔を赤らめて夕貴が言った、深く追求しないことにしよう。

お互い恥ずかしいきもちのまま、向き合って少し黙った。

「よし!」

沈黙を破ったのは夕貴の方だった、わたしの身体を持ち上げるとベッドにおろしこう言った。

「いいんだよね?」

何だか・・・はじめての時のようで恥ずかしくて、黙って頷いた。

<20-3>につづく

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初心・uigokoro 20-1~ふたりでいる部屋~

初心・uigokoro 20-1~ふたりでいる部屋~

この日、わたしは夕貴と2人で食材を選び、わたしの部屋で料理をした。

夕貴は叔父さんが店をしているのもあり、手際よく野菜を切ってくれた

「わたしより上手かも・・・。」

「よく叔父さんの手伝いさせられてたんで・・・。」

はにかむ笑顔は昔と変わらない。

少し部屋を片付けていて良かった・・・自分から部屋に誘うことって

女性の友達以外はなかったな。

簡単な食事を済ますと、バスタブに湯を溜めた。

「お風呂、はいってくるね。」

「えっ・・・じゃ、俺はそろそろ・・・。」

と帰り支度をする彼。

「今日は、いてよ。」彼のシャツの裾を握って止めた。

恥ずかしいけど思い切って言った。

「今日は泊まってかない?」

驚いたようだけど、嬉しそうな顔をして夕貴は腰をおろした。

「早く出るから、ゆっくりしてて。」

今日は素直になれそう・・・

そう思った、うん。

こんな風にドキドキしながらお風呂に浸かることって、どのくらいぶりだろう。

早く出ると言ったけど、ゆっくり丁寧に身体を洗った。

下着は、このあいだ買った新しいクリーム色のセット

洗いざらしのシャツを羽織って夕貴の待つ部屋に向かった。

ねぇ、こんなにドキドキしてるよ。。。

<20-2>につづく

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初心・uigokoro 19-3~歳月~

初心・uigokoro 19-3~歳月~

「今日のみちる、様子がなんだかおかしいから気になってたんだ。」

勝手に自分で色んな引け目を感じて、勝手に落ち込んで・・・。

「いつからこんなに弱い私になっちゃったんだろう?最近泣いてばかりだし・・・。」

人前で泣いたりするような私じゃなかったのに、特に夕貴の前でよく泣いてる気がする。

「泣き顔を見せてくれるってのは、少しは頼りにしてくれるようになったのかな?」
照れながらそう言うあなたが眩しく見えた。

「多分・・・ね。」少しなんかじゃないよ。そう言いかけたが照れ臭くて慌てて言葉を飲み込んだ。

「10年前と同じように別れ話でも切り出されるかと思ってたよ。」

「なんのこと?」

「10年前の今日、君に振られた。」

え?そうだっけ?
そんな昔のこと覚えているの・・・?あまりに驚いて声が出せなかった。

そうか、そういえば私の高校の卒業式・・・だったよね。

「『じゃあ、さよなら。元気でね』って言って・・・『卒業おめでとう』と出した俺の手を握り返して笑顔でそう言ったんだよ。」

「そうだっけ・・・。」

うん、と軽く肯くと

「その時君が『もし10年後に出逢ったら、その時は付き合って』って言ったんだ。」

「え・・・私がそう言ったの?」

「まだ10年経ってなかったけど・・・あの日、偶然街で見かけたとき、
声をかけるの勇気が要ったんだよ。でも・・・」

「でも?声かけてくれたじゃない。」

「もし人違いでも謝れば良いや。
でも本人だったら此処で声をかけないともう逢えないかもしれないって・・・思った。」

一瞬、夕貴が昔のユウキと重なった。

「まさか10年待っててくれた・・・なんて事はないよね?」

ちょっと不安になって尋ねてみた。

「まさか!!それじゃ、まるでストーカーみたいじゃない、でも付き合う人がみんなみちるに何処か似てたかもしれないな・・・。」

「ちょっと、気になる発言だけど・・・聞かなかった事にしておくわ。」

「ん?いや・・・でも本当に、君が初めて俺の心の中に入ってきた女の人だったんだ。」

「年上だったのに?」

「だから・・・自分では気にしないようにしてた。」

そんな話をしていると、何だか悩んでいたのが嘘のように心が晴れていくのが分かった。

「ねぇ、今日は家でご飯食べようか?時間かかるかもしれないんだけど・・・。」

夕貴の腕に自分の腕を絡め、彼を見つめた。
 
「一緒に夕食の買い物付き合ってくれる?」

今夜は・・・素直なわたしになれそうな気がした。

              <20へつづく>

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初心・uigokoro 19-2~歳月~

初心・uigokoro 19-2~歳月~

うつむきながら、髪の毛が風に吹かれ揺らぐのを感じた、
いつの間にか風がほんのりと暖かいこんな季節になったんだ。

「夕貴は、私の事って本当はどう思ってるの?」

「え?何、急に・・・好きだよ。」

「好き」って言葉は曖昧だ、どんな風にも取れる。
私の「好き」と夕貴の「好き」の距離は言葉だけでは分からない。

「それは、お姉さんとして好きだって事?それとも、女性として・・・?」

顔をあげた、斜め上に見上げる夕貴はすっかり大人になってしまったというのに
私の方があの頃の気持ちのまま、止まっていたのかもしれない。

「女性としてに決まってるじゃないか。」

「でも、私はあなたより年上だし、何もメリットとかないでしょ?
特別・・・美人とかってわけじゃないし・・・もっと若くて綺麗な子だって・・・。」

言ってしまった。

このところずっと疑問に思っていたことを。

そう、夕貴に似合う若くて可愛い女の子なら他にもいっぱいいるのに。

「ねぇ、みちる・・・急にどうしたの?」

「夕貴は私のこと女性として見てくれてないんじゃないかって・・・最近そればかり考えていた。

私があなたの事を好きになっても、友達としか思ってないかもしれないって・・・。」

夕貴が私を見つめる眼がふっと優しくなった。

「俺が10年前、ずっとそう思っていたのに、君は気付いてくれなかったね。」

「年下だから、弟みたいにしか思ってないんだろうな、って思いながら付き合っていて、それでも君を好きでいた。
でも・・・高校を卒業した日を境に居なくなってしまった。」

「あの時は・・・私と一緒に居るとユウキの勉強の邪魔になると思ってた。
進学校が志望校だったよね、確か・・・。」

「自分が大切に想ってる人が突然いなくなるって・・・どんな・・・。」

途中まで言いかけて言葉をやめた。

「ごめんね・・・。あの時はそれが一番良いって思ってた。違うよね、残された方がどんな気持ちになるか考えてなかった・・・。」

ぽろぽろ涙が溢れてきた、つい先日自分が味わった気持ちをずっと昔のユウキにさせていたんだと初めて気付いた。

「ごめん、こんなこと言うつもりじゃなかったのに・・・。」彼が優しく私の頭を抱えた。

<19-3>につづく

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